大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和37年(家)11835号 審判 1963年2月28日

申立人 池田浄(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人はその名浄を康敞に変更することを許可する旨の審判を求め、その理由として、申立人は少年時代から数十年間通名として康敞と称して来たため戸籍上の名が浄となつていては社会生活上支障があるので改名の許可を得たいと述べた。

よつて案ずるに申立人本人審問の結果に本件記録添付の証拠資料を綜合すると、申立人主張の如き事実を認めることができる。

しかしながら、戸籍法五〇条は「子の名には常用平易な文字を用いなければならない。常用平易な文字の範囲は命令でこれを定める」と規定しているが、その趣旨は、言うまでもなく一般社会に於て日常使用されることの少い文字とか、読み難い文字等を人名に使用すると、単に本人のみならず社会公共生活の面でも種々の不都合を生ずるので公益的な目的で社会生活上の支障を排除するため一定範囲の制限を設けることにしたものであるから、明文の規定はないけれども右の法意は改名に関しても準用されなければならないものと解すべきである。 従つて命令によつて常用平易な文字と定められていない文字を使用する改名の申立には、原則として戸籍法一〇七条二項所定の正当な事由を認めることはできない。

ところで本件申立にかかる「敞」の文字は、常用平易な文字の範囲に含まれていないのであるから、右の戸籍法の精神に照せば、たとい申立人が通称として永年「康敞」の名を使用して来たため、現在の社会生活に幾分の支障が生じているとしても、他に特段の事情の認められぬ限り、本件申立は結局失当と言わさるを得ない。

よつて主文の通り審判する。

(家事審判官 加藤令造)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例